ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Central do Brasil セントラル・ステーション

ブラジル映画 (1998)

ブラジルが生んだ名画の1つ。アカデミー賞の外国語映画賞と主演女優賞にノミネートされ、ゴールデン・グローブ賞では両方とも獲得、ベルリン国際映画祭で作品賞、主演女優賞を獲得するなど、全部で43の賞を受け、ノミネート数は26。IMDb 8.0、RottenTomatoes 94%も最高レベルに達している。今から25年前に撮影された映画だが、ブラジルの社会に変化はあったかもしれないが、それなりの説得力を持ち、特に、開始約35分後からロードムービーになってからは、ブラジル各地の珍しい風景や慣習を交えつつ、主役のドーラとジョズエのお互いに対する感情の変化を見事に描ききり、結末も、観客の誰をも満足させる内容となっている。映画のパンフレットの解説では、「ジョズエの方は最初から最後まで無垢」で、「ドーラはジョジュエという導き手を得て、少しずつ浄化されてゆく」などと書かれているが、これはいい加減な分析。ジョズエの前半の生意気な態度は観ていて腹が立つほど傲慢、独りよがりであり、無垢などとは正反対の状態。一方のドーラは、これが前小学校の教師かと言えるほど、道徳心ゼロの女性。この2人を “浄化” していくのは、①相手の傷付いた心を見ること、②善良な人々との触れ合い、③2人を待ち受ける予想外の難題、そして、④極度の貧困である。これにより、2人の間には、生涯分かちがたい強い絆が生まれ、それが観客を魅了する。それにしても、観ていて驚かされたのは〔単に観ているだけでは気付かず、あくまで、現在の姿と比較しての話だが〕、ブラジルの四半世紀の間の変わり様。しかも、良い方ではなく、悪い方へのだ。その背景には、ブラジルの治安悪化の地方都市への拡がり、フラジルの北東部地方の緩慢な衰退が背景として挙げられる。なお、訳出にあたっては、ポルトガル語の字幕を使用し、補助的に英語字幕を使用した。DVDの日本語字幕は、台詞にない言葉が多用され、意訳の許容限度を超えている。

映画は、夫に嫌気がさして家を出た妻アンナ、9年間 何の連絡もしなかったアンナが、逃げ出した時には まだこの世に生まれていなかった息子ジョズエを連れて、リオの中央駅で非正規の代書屋をやっているドーラに、夫への手紙を依頼するところから始まる。内容は、ジョズエが父に会いたがっているというもの。手紙の宛先は、リオの北方約1900キロにあるBom Jesusという町の郊外の牧場。アンナは、夫がとっくにそこを売って、他所に移ったことを知らない。そして、夫が数年前から、アンナを探しにリオに出て来ていることも。そころが、このドーラも食わせ者で、郵送するハズの手紙は、内容により、破いて破棄するか、アパートの引き出しに入れておくだけの詐欺師。幸い、アンナの手紙は破棄ではなく、引き出し行きになった。最初の手紙の内容が、夫に厳し過ぎると思ったアンナは、再度ドーラの元を訪れるが、その帰り、信号交差点を渡る際、ジョズエが木のコマを拾いにいったのを道の真ん中で待っていて、バスにぶつかり死亡する。行き場を失い、駅で寝ているジョズエに、彼女もショバ代を払っているヤクザが関心を示したのを見たドーラは、ヤクザの勧めで、ジョズエを国外養子縁組の組織に連れて行く役目を仰せつかる。ドーラは、親切を装ってジョズエを自分のアパートに泊めるが、その時、引き出しに入れた手紙を見つかってしまい、投函を約束する。しかし、翌日ドーラがしたことは、投函ではなく、ジョズエを組織に連れて行くこと。そこで、1000ドルの謝礼金をもらい、新品のTVを買い、ほくほく顔でアパートに戻る。すると、同じアパートに住む友人のイレーネから、国外養子縁組ではなく、臓器売買の犠牲者になると指摘され、自分の軽薄な行動を反省する。そして、翌日、引き出しから選んだ養子縁組の候補者の写真を複数持って再度組織を訪れ、隙を見てジョズエを救い出す。そして、責任上、Bom Jesusまでのバスの切符を購入し、ジョズエと一緒にバスに乗る。ここからが、ロードムービーとなる。起きた主な出来事は、①ドーラは、途中でジョズエを一人残し、リオに戻ろうとするが、ジョズエもこっそり降りてしまい、その際、バッグをバスの中に置いてきたことから、ドーラは全財産を失う。②困ったドーラを救ったのが、自家用トラックの運転手のセザル。Bom Jesusまで2人を乗せてやろうとするが、ジョズエの失言と、ドーラの疑惑を招く言動のせいで、途中で放置される。③ドーラは唯一残った腕時計と交換に、個人経営のトラックバスの荷台に2人で乗り Bom Jesusまで行く。④しかし、手紙の宛先にあったBom Jesus郊外の牧場は人手に渡っていて、ジョズエの父はVila São Joãoにいると教えられる。⑤Bom Jesusに戻ったドーラは、疲労のために気を失い、それを気に、険悪だったドーラとジョズエの仲は変わり始める。特に、ジョズエがドーラに代書屋をさせて大金が入ると、2人は相棒同士になる。⑥2人は、Vila São Joãoの、教えられた住所に行くが、出てきた男は不親切で、ジョズエの父は どこかに消えたとしか教えてもらえない。⑦ドーラはジョズエにリオで一緒に暮らそうと言い、ジョズエも賛成する。⑧バス停の戻ると、ちょうど近くで大工をしていた男が、ジョズエの義兄に当たることが分かる。そして、2人は、同じVila São Joãoに住んでいる2人の義兄の家に連れて行かれる。⑨そこで、ドーラとジョズエは、9年前にアンナがリオに逃げ出したこと、その2年余り後に、父がやけになって酒浸りになり、Bom JesusからVila São Joãoに移ったこと、そして、その何年後かに、姿を消したことを聞かされる。義兄は、半年前に父がリオからアンナ宛に出した手紙を取り出し、読めないのでドーラに呼んでくれと頼む。手紙の内容は曖昧で、父が本当にVila São Joãoに帰って来る可能性は50%だった。⑩ドーラは、ジョズエが2人の義兄と気が合っていることから、その夜、こっそり家を抜け出し、1人でリオに向かう。その中で、愛情に満ちた手紙をジョズエに書く。

主役のジョズエ役はヴィニシウス・デ・オニヴェイラ(Vinícius de Oliveira)。1985年7月18日生まれで、映画の撮影は1997年2月で終了しているので、撮影時は11歳。9歳という映画の設定は、少し不自然。資料により異なるが、9歳か10歳まで、リオで靴磨きをしていて監督に見出され、以後は、現在に至るまで俳優として活躍している。映画の前半では、観ていて嫌いになるほど性悪な少年を演じているが、後半になるに従って嫌悪感が好感へと変わって行く。

あらすじ

リオデジャネイロの中央駅でショバ代を払って開業している代書屋のドーラの前には長い列ができている。ようやく番が回ってきたジョズエの母は、「あんたとの出会いは、私の身に起きた最悪の事」(1枚目の写真)「これを書いているのは、あんたの息子のジョズエにせがまれたからよ。ジョズエに、あんたは甲斐無しだって言ったんだけど、それでも あんたに会いたがってるわ」と、怒りをぶつけるように話す(2枚目の写真)。ドーラは、宛先を訊く。母が口にするのは、「ペルナンブコ州のBom Jesus do Norte」という地名。この州の州都レフシェはリオデジャネイロの北北東約1870キロにある。東京の北北東の稚内でも約1100キロなので、その1.7倍。かなり遠い〔Bom Jesus do Norteは、エスピリトサント州にある町で、リオデジャネイロの北東約250キロ。全く矛盾しているが、映画のロケはペルナンブコ州で行われたので、ここでは、そちらを優先する〕。ドーラが、封筒に宛先を書いている間じゅう、ジョズエはドーラをじっと見つめている(3枚目の写真)。

夕方の中央駅。時計は午後6時47分を指している(1枚目の写真)〔中央駅は 1943年に再建されたもの/Estação Central do Brasil(ブラジル中央駅)の名称は、この映画がオスカーの外国語映画賞、主演女優賞にノミネートされて以後、映画の題名Central do Brasilが駅の正式名称として定着した〕。その日の仕事を終えたドーラに、駅を仕切っているボスがやってきてショバ代を受け取り、愛想よく別れる(2枚目の写真、黄色の矢印がドーラ、空色の矢印は今後ともボス)。ドーラは、乗車する電車が停まっているホームを足早に歩く。しかし、乗車がOKとなると、若者たちは窓から中に入り(3枚目の写真)、あっという間に席を占領する。従って、いくらドーラが早足で歩いて来ても、結局、立たされることに。電車は、ドアが開いたまま発車する〔人が溢れているので、ドアが閉められない〕

ドーラは、線路に面したアパートの2階に独り住まい。部屋に着くと、すぐに線路側の窓を開け、斜め下の1階に住む友達のイレーネを呼ぶ〔イレーネはドーラと13歳しか違わないが、厚化粧なので若く見える。2人とも独身なので、中・老年独身女性同士、気が合う〕。部屋に来たイレーネがTVを付けるが、画像が分からないほど乱れる〔伏線〕。「このガラクタ、あたしの年と同じね」。ドーラは、「シェイゴーラ〔Chegou a hora(始めるわよ)〕」と言うと、イレーネに座るよう指示し、鞄から今日書いた封筒を全部テーブルの上に置く。イレーネは、「またやるの、ドーラ。あたしは反対だって、はっきり言っておきたいわ」。ドーラは、1通の封筒を渡し、イレーネに読むように勧める。それは、ドーラが書いていて一番気に食わなかった手紙。あまりのひどい内容に〔大卒と書きながら、字も書けない〕、イレーネも積極的に手紙を破り捨てるのに参加する(1枚目の写真、矢印は破片)。次に、イレーネが選んだ封筒は、ジョズエの母の手紙。ドーラは、「彼女は、子供が飲んだくれの父親に会いたがってると言ってるけど、ホントは、夫に戻って欲しいのよ」と言い、破り捨てようとするが、本質的に優しいイレーネは、これで家族が元に戻るかもしれないからと、破棄に強く反対する。ドーラは、引き出しに入れておくと言うが、イレーネは、明日投函するよう求める。ドーラは、「破るか、引き出し。来週気が向いたら、投函」と答え、イレーネは、「嘘よ! 何年も煉獄に入れて置く気でしょ」と喝破し、ドーラは笑いながら引き出しに入れる(2枚目の写真、矢印)〔伏線〕

ドーラの前に、再びジョズエと母が現われる。映画を観ていると、如何にも翌朝といったイメージだが、母は、「Outro dia (先日)、手紙を書いてもらったわね。覚えてる?」と訊く〔“先日” は昨日でも一昨日でもなく、3日以上前を指す〕。「もう投函しちゃった?」。「いいえ、今日、投函するつもり」。「よかった! あれは破いちゃって、他のを送りたいの。あの人に、厳し過ぎたから」。それを聞いたドーラは、台の上に置いてあった5通の封筒の中から1通取り出し、破いて細切れにする〔①ドーラは、最初の封筒を引き出しにしまい込んだ、②破いた封筒の一番下に瞬間見えた文字は「Ceará(セアラー州)」なので、全く別の宛先、③ドーラはさっき書いたばかりの封筒を、破いてしまった。1997年2月頃の1レアルは約110円。この年の1人当たりのブラジルのGDPは5280ドルで、日本の15%。貧富の差はもっと大きいので、2レアルを払った結果が、即破り捨てとは、ドーラは詐欺師に等しい〕。ジョズエの母は内容をもっとソフトにすることにしたと言い、「息子のジョズエが あんたに会いたがってる。あんたを知らないから、Bom Jesus に “uns tempo” 行きたいって」。ここで、ドーラが文法の間違いを指摘して、「tempos」と言う〔“uns tempos” の意味は、しばらく〕。「来月はバカンスなので、一緒に連れていくわ。そうすれば、モイゼスとイザイアス〔前妻との間にできた兄弟〕にも会えるし」。ここまで来た時、「あのクソ野郎に会いたくてたまらないの。あなた経験があるでしょ。教えてよ、どう書けばいい?」とドーラに訊く。ドーラは、最初のジョズエの部分は無視し、新しい紙に、一種の恋文に近い形の手紙を書くが、ジョズエにはそれが面白くない。母は、同封してくれるよう、ジョズエの写真も渡す。ドーラは、紙に写真を挟んだ状態で〔封筒に入れていない。前の封筒は破いてしまったことになっているので、宛先も分からない〕、「私が出す、それとも、そっちが?」と訊く。「出してよ。幾ら?」。「2レアル。でも、1通は送ってないから1レアル」。それを聞いたジョズエは、「ママ、この女(ひと)、手紙を出すか、どうやって分かるの? 封筒にも入れてないんだよ」と、不安を口にする(1枚目の写真)。「失礼でしょ?」。ドーラは、宛名も訊かずに、「次の人」と言う。2人は、駅から出て行き、信号交差点を、手をつないで渡り始める。ところが、道の中央まで来た時、ジョズエが手に持っていた木のコマが、反対側から渡って来た男の脚に当り、転がって行く〔ジョズエは、振り向いて男に文句を言うが、映像を見る限り、ジョズエの不注意でもあり、一概に男のせいではない〕。ここで、ジョズエは致命的なミスをする。母の手を放し、木のコマを取りに路肩まで戻ったのだ(2枚目の写真)。その間、母は車道の中央で待っていて、「来なさい」と呼ぶ(3枚目の写真)。しかし、ブラジルの歩行者用の信号は余程時間が短いのか、バスが信号を無視したのか、少なくとも前方不注意だったのか、交差点に高速で突っ込んで来て、母と真正面からぶつかる。母は即死。ジョズエは、バスの下に横たわった母に、「母さん、やだ、母さん!」よ呼びかけるが(4枚目の写真)、すぐに、他の大人に引き離される〔日本なら、救急車で一緒に病院まで搬送されるのに、ここでは、ジョズエは何のサポートも得られない。これがブラジル流なのか、映画の中だけの特殊事情なのかは分からない〕。事故に気付いたドーラは、母が台の上に忘れていったハンカチが、床に落ちているのを見つけ、拾う〔伏線〕

暗くなり、1人放置されたジョズエは、構内のベンチに座り、泣いて悲しむ(1枚目の写真)〔反省の念もあってしかるべき〕。しばらくすると、ジョズエは立ち上がり、どこかに消える。今度は、確実に翌朝、ジョズエはドーラの前に現れ、「父さんに出紙を出したい」と言う。そして、「父さん、リオに来て。母さんがケガを」と文面を口にする。しかし、ドーラの口から出た言葉は、「お金あるの?」という冷たい言葉。「ある」。「見せて」。それを聞いたジョズエは、下を向く。「リオに知った人は?」。「手紙書いてよ。僕が出す」(2枚目の写真)。「お金を見せたらね」。「なら、母さんの手紙を返せ」。「もう、出した〔嘘〕。そこ、どいて」。「手紙、返せ!」。「とっとと、失せな」。夕方になり、ドーラが帰りの電車に乗ると、彼女を追って来たジョズエは、ホームを歩いて行く大勢の通勤客の間に立ち、ドーラを睨み続ける(3枚目の写真)。そして、電車がプラットホームから動き出すと、電車を追って走り始める。ジョズエは、プラットホームの端まで行くと、電車の行った方をじっと見ている。ジョズエは、駅に戻ると、そのままずっと居続けるが、真夜中になり駅が閉鎖になると、係員に追い出される〔前の日はどこで寝たのだろう?〕

翌朝、一番列車が出た後、駅構内の壁際で寝ているジョズエが映る。大勢の通勤客が行き交う時間帯となり、駅で簡単な朝食を食べていたドーラは、早朝とは違った場所で寝ているジョズエに気付く。こんな冷血な女性にも、僅かな人間性はあったと見え、ゴミ箱の近くで横になっているジョズエに近づき(1枚目の写真)、「ねえ、ガキンチョ。起きて。サンドイッチ欲しくない?」と、声を掛ける。ジョズエが何も言わないと、「腹ペコでしょ?」と訊く。「もう食べたよ、どうも」。ドーラが、いつも通り代書屋をやっていると、構内に並んだ小さな屋台店から「All Weather" Sports」という、その当時から15年以上前に発売された小型のカセットプレイヤーが、走って来た男によって盗まれる。ボスは、近くにいた手下に追うように命じ、ボスも早くはないが後を追う。盗っ人は、停車中の電車のドアから入り、反対側のドアから出て隣のプラットホームに移り、さらに、プラットホームの先端から線路に飛び降りて逃げるが、結局追い付かれてしまう。その頃、ボスはゆっくりと線路に降りる。そして、「撃たないで、返すから」と懇願するのを無視し、2人で射殺する(2枚目の写真、空色はボス)〔こんなことが、平気で行われる国なのだろうか?/リオデジャネイロの1997年の人口10万人当たりの暴力事件による死者数は51.8人。人口は5612944なので、総死者数は2867人〕。午後6時、ドーラが帰り支度をしていると、ボスがジョズエに 優しく話しかけているのに気付く(3枚目の写真)。ドーラは、「私に任せて、ペドランさん。私、その子 知ってるわ」と声をかける。「なら、あんたに話がある」。ボスは、何事かドーラに話しかけ、ドーラは嬉しそうに別れる(4枚目の写真)〔“秘密” を強調するため、丸い穴の沢山開いた板越しに撮影されている〕

ドーラは、ベンチに1人寂しく座っているジョズエの隣に座ると、「ねえ、チビちゃん」と呼びかける。「僕の名前は、ジョズエ・パイヴァ・デ・フォンテネリだ。パイヴァは父さんから、フォンテネリは母さんから」。「じゃあ、ジョズエ・デ・パイヴァ、私の家に一緒に来たくない?」。「母さんを待ってる」。「もう来ないわ」。「嘘だ」。「もう来ないのよ、死んだから」(1枚目の写真)。ドーラは、切符を渡し、気が変わったら付いて来るように言って席を立つ。次のシーンでは、ドーラのアパートに、おずおずと入って来るジョズエが映るので、結局、付いてきたことになる(2枚目の写真)。さらに次のシーンでは、イレーネが加わる(夕食)。ジョズエの皿の料理がかなり残っているので、イレーネが笑顔で、「気にいってる?」と訊く。ジョズエは顔をしかめる。それを見たドーラは、「あれ見た? 気難しい客だと思わない?」とイレーネに訊く(3枚目の写真)。イレーネは、「ママの料理の方が、上手だったんでしょ?」と訊くと、「ううん、母さんは、料理の仕方知らなかった」と答えるので、なぜドーラの料理を食べなかったのかは不明。

その後の会話の中で、イレーネもドーラと同じ境遇だと分かる。2人とも元教師で、未婚、子供なし。ただ、イレーネがどんな仕事をして生計を立てているのかは不明。ジョズエからの一方的な質問ばかりなので、今度は、イレーネが、ジョズエの父について訊く。ジョズエは 「父さんは働き者で、大工だ。木のね。だから、ドア、テーブル、イスから家まで、一人で作るんだ」と自慢する(1枚目の写真)。ドーラ:「ジョズエは、何になりたい?」。ジョズエ:「トラックの運転手」〔自家用トラックの〕。ここで、イレーネは、2人の父が機関車の運転士だったと言い、ドーラが、「2人とも カシャッサ〔ブラジル原産の蒸留酒〕の飲んだくれの、トンチキ〔merda〕だったと付け加え、共通点が2つ増える。2人が、後片付けをしている間、ジョズエはTVをつけるが、まともに映らないので、室内を見て回る。そのうち、5センチほど開いたままの引き出しの中に、母が、同封してくれと渡したジョズエの写真の先端が見えている。そこで、引き出しをもっと開け、最初に書いた封筒を見つける(2枚目の写真、矢印)〔2回目の時に破いた封筒が、母とは無関係の物だったとまでは気付かない〕。すると、ドーラが、「そこで何してるのよ、このガキ!」と咎めるように言って、手紙を奪い取る。そして、「お母さんの手紙を出さないと 疑ってるのね? そんなことない。ここずっと忙しかったから、郵便局に行く時間がなかったの」と弁解する〔2回目の時に破った封筒のことは、両者とも何も言わない〕。ドーラを信用していないジョズエは、「僕が父さんのトコに持ってく。寄こせ!」と、奪おうとするが、ドーラは、「頭がおかしいんじゃない? どこ住んでるか知ってるの? うんと遠い、地の果てよ」と言って、渡そうとしない。「届けてみせる」。「絶対に無理」。ドーラは、明日出すからと誓う。そして、ジョズエの要求に答えて、手を握って誓う(3枚目の写真)。「また、嘘付かない?」。「No」〔ドーラは、嘘しかつかない〕

翌日、乗った電車が中央駅行きではなかったのか、ジョズエが、「僕たち、ドコ行くの?」と尋ねる。「素敵なトコよ。いいわね?」。山腹に建つ大きなマンションの吹き抜け部分で、昨日、内緒話をしていたボスのペドランが待っている。ペドランが、日除けの付いた外通路に面した部屋をノックすると、抜群に親切そうな若い女性が満面の笑顔でドアを開ける。部屋の中は整っていて、1人の少女が床の上で遊んでいる。女性(ヨランダ)は、ドーラに、「彼が何て話したか知らないけど、ご覧のように、私たちは子供たちに家族の一員として接しているの」と言い、ペドランは、「子供たちは、ヨーロッパやアメリカの金持ちと暮らすんだ。彼だって、大きくなる頃には、お金にうんざりしてるだろう。恩を忘れるな」と、ジョズエに言う(1枚目の写真)。ジョズエは、話が違うので 3人に強い不信感を抱く。そして、部屋の隅に座らされると、ドーラを涙目で見る(2枚目の写真)。ヨランダは、ドーラに、「額はペドランから聞いてるわね?」と言い、ペドランは、「2000ドルで、1000があんたの取り分」と言い、1000ドルを渡す(3枚目の写真、矢印は紙幣)。ドーラは大満足でジョズエに別れを告げる。そして、荷物を引いて歩くドーラの遠望が映る。アパートに帰ったドーラは、イレーネを呼んで来て、新品のTVを見せる。イレーネは、感心しながらも、「ジョズエについて、判事は何て?」と訊く。「未成年者にベストの施設に入れるよう、判事に頼んだわ」。そして、行き先を訊かれると、リオグランデ・ド・スル州のPelotasという、リオデジャネイロの南西約1340キロにある町の施設を適当に捏造する。イレーネは、リオデジャネイロにいるなら会いたいと言い出すが、もう発ったと言われると、この話全体に疑問を抱く。そして、TVを買うお金をどこで調達したか訊く。ドーラは、金の指輪を売ったと嘘をつくが、すぐに「嘘」だと指摘される。そして、「これを買ったお金、どうやって手に入れたの? 正直に話して。お願い!」と迫る。「駅の友達から、海外に子供たちを送る人のことを聞いたの」。「まさか、そんなことしたの?」。「彼のためを思って、なのよ。児童養護施設で終わるよりマシでしょ」。「新聞読んでないの? 養子なんかじゃない。子供たちを殺して、臓器を売るのよ」(4枚目の写真)。ドーラは反論するが、イレーネに、「何事にも限界があるのよ〔Tudo tem limites〕」と言われると、真剣に悩み始める。

悪夢に苦しんだドーラは、翌朝、引き出しから可愛い子供の写真を4枚集め、昨日のマンションを訪れる。ヨランダは、昨日のように笑顔ではないが、昨日の今日なので、一応ドアを開けてくれる。ドーラは、如何にも “欲張りばばあ” のように、他にも子供を知っているので引き取ってもらえないかと、写真を渡す(1枚目の写真、矢印)。ヨランダは、夫に見せてくると言って、ドアを少し開けたまま中に入って行く。その隙に、ドーラはこっそり中に入って行く。幸い、ヨランダの夫が、時間外で「眠い」と言い、ヨランダが「4人もいる」と言い合っているうちに、3つ目のドアでジョズエが寝ている部屋に辿り着く(2枚目の写真、いい環境とは言えない)。ドーラは、一刻も早くジョズエを出そうとするが、ジョズエは、何と言われても、「行かない」「嘘つき、放せ!」「この役立たず」「ヨランダを呼ぶ」とゴネて動こうとしない(3枚目の写真)。ドーラは、ジョズエの腕をつかむと、無理矢理 部屋から連れ出すが、その音でヨランダが気付き、追って来る。そして、玄関ドアのところでドーラの服の半袖部分を握ると、「逃がすもんか!」と怒鳴る。ドーラは、力任せに外に出ようとし、袖が破れて反動でヨランダは転倒し、同時に、ジョズエも廊下側に放り出される(4枚目の写真、ここが 日除けの付いた外通路)。外から鍵はかからないので、どうしてヨランダと夫がドアを開けて追ってこないのかは分からないが、衝撃でドアが壊れたのだろうか? 窓から、ヨランダが、「くそばばあ! ちくしょう! 殺してやる! ゲス女!」と叫び、その下の道路で、ドーラはタクシーを拾おうと必死になる。やっと拾ったタクシーに、ドーラは、「Cascadura」と告げるが、この駅は、中央駅の西北西14キロにある かなり治安の悪そうな地区にある。

自分のアパートに戻ることが心配になったドーラは、タクシーの行く先を変える。そして、バスステーションの公衆電話から、イレーネに電話する。電話に出たイレーニに、「イレーニ、気を付けて。もし、口髭のマッチョな男が私のことを訊きに来ても、慌てないで。でも、中に入れて、コーヒーなんか出しちゃダメよ。いい?」と言う。「実は、その…」。「信じられない」。「そうなの」(1枚目の写真、矢印はペドラン)〔ペドランは、ドーラがイレーニと親しいことを なぜ知っているのだろう? 映画を観ている限り、そのような接点は存在しない〕。そこで、イレーニは、男友達から電話が掛かってきたフリをして、話を進めるが、最後に、ドーラは、①自分の部屋の戸締りと、②Bom Jesus do Norteの銀行への200レアルの送金を依頼する〔あとで、イレーニがBom Jesus da Lapaの銀行に誤送金したことが分かる/ドーラとジョズエが目指すペルナンブコ州の800キロ手前〕。バスセンター〔中央駅の西北西約1.8キロ〕で、ドーラは発車間際にジョズエに切符を渡そうとする。ドーラに振り回されることに苛立っているジョズエは受け取ろうとしない。「取って、ガキンチョ。助けてあげようってのが、分らないの?」。ジョズエは、切符を奪い取ると、「1人で行く」と主張する(2枚目の写真、矢印はヨランダに引き裂かれた袖)。「一緒に行くと言ったでしょ」〔だから、最初、切符の受け取りを拒否した〕。「一緒に行きたくない」。「どうして?」。「あんたなんか、嫌いだ」。「どうして?」。「言っただろ。役立たずだって」。「どうやって そこまで行くつもり? 説明してみなさいよ」。「食事代、少し貸してよ。向こうに着いたら、父さんがお金を送るから」。「このバカ」。「母さんの手紙を返せ」。ドーラは、封筒を渡す〔そこに住所が書いてあるので、それがないと行けない〕。ジョズエは、すぐに立ち上がり、バスの乗車口に向かう〔切符を係員が回収する〕。バスが動き始めると、ドーラはバスに駆け寄り、ドアを叩いてバスを停め、乗車させる(3枚目の写真)。

座席は予約制になっていたのだろうか? ジョズエの隣の席が空いていたので、ドーラはそこに座る。ジョズエは、面白くないので真っ暗な窓の方を見て、ドーラを無視する(1枚目の写真)。翌朝、バスは中規模のバスターミナルに到着。バスを降りたところには、小規模な店が並んでいる。ジョズエが白いワークシャツを手に取って見ていると、ドーラは、「なぜ、シャツなんか? 結婚でもするの?」と厳しく行って、奪う。ジョズエは、もう一度ワークシャツを取ると、「父さんに会う時のためだ」と主張する。次のシーンでは、トイレから2人が同じワークシャツを着て出て来る(2枚目の写真)。彼女も、袖が破れた服をいつまでも着ているわけにはいかないので、一緒に買い替えたのであろう。シャツを買ってもらったせいなのか、休憩した後、同じバスに乗り込むと、ジョズエは積極的にドーラに話しかける。話題が父の話となった時、ドーラは 通路を挟んで左隣の口髭男を見て、「私の父はあんなだった。家では野獣、外では道化。ある時、私 『お前さん、“Pimpão” の娘かい?』と訊かれたのよ」(3枚目の写真)「父のあだ名は、何と “Pimpão” だったの」〔Pimpãoの意味は、DICIOによれば、fanfarrão(自慢屋、ほら吹き、天狗、大口叩き)〕「まるで、“Palhaço(ピエロ)” だわ」。次のジョズエの台詞は、「僕は、バスなんか嫌いだ。タクシーがいい」というバカげたもの〔1800キロ以上タクシーに乗って、幾らかかると思っているのだろう?〕。ドーラの返事は、法外な料金のことではなく、バスはちゃんとしたルートで目的地に着くが、タクシーはルートを間違え、道に迷うというもの。この変な返事の理由は、「父から母に手紙が来てね、毎日バスに乗るのは飽きたから、母に飽きたってことよ、タクシーに乗るんだと書いてあった。他の女に乗り換えたの」という、苦い経験にあった。「私が、あんたと同じくらいの年だった」(3枚目の写真、矢印はアルコール飲料のボトル)。

再び夜が来て〔バスは夜、リオを出たので、丸一日走り続けたことになる。時速70キロとして、途中休憩が3時間とすれば、1470キロ〕、ドーラは、それまでにアルコール飲料のボトルを8割ほど空けていたので、ぐっすり眠っている。ジョズエは、こっそりビンを取り上げると、封を開けて匂いを嗅ぎ、残りを飲み干す(1枚目の写真、矢印)。それから、どのくらい時間が経ったのか分からないが、外はまだ真っ暗。ふと目が覚めたドーラが、ジョズエの席を見ると、そこには空になったビンだけが残っていた。そして、女性の声で、「席に戻りなさい」と命令する声が聞こえる。ジョズエは、バスの最後尾に座ると、酔っ払った声で、「僕の名前は、ジョズエ・フォンテネリ・デ・パイヴァだ。パイヴァは父さんから、フォンテネリは母さんから」と、叫んでいる(2枚目の写真、矢印)。ドーラの横に座っていた “ピエロ” が、「見ろや、あの小僧、カシャッサで泥酔してやがる」と言い、乗客から笑い声が起きる。ドーラは、ジョズエのところまで行くと、「このトンチキ、母親なら叩いてるよ」と言い、席に向かって引っ立てるが、ジョズエも、「母さんじゃない!」と文句を言い、「父親と同じ、飲兵衛になるよ」。「あんたもだ。なんで付いて来た?」。「助けるためじゃないの」と、言い争いになる。

朝になり、バスは、小規模なバスセンターに到着。運転手は、10分間の休憩を告げる。前夜、あれほど争っていたのに、ジョズエはドーラにもたれて眠っている(1枚目の写真)。それを見たドーラは、ここで、“お荷物” と別れる決心をし、所持金の大半をジョズエの財布に入れ(2枚目の写真、矢印は紙幣)、それを彼のバッグに戻す。そして、住所を書いた封筒に書いてあった住所を紙に書き写すと、それと、自分の荷物を持って運転手の所に行き、「Bom Jesus do Norteにいる父親に会いに行く甥と一緒に来たんだけど、行けなくなったの。この住所まで連れて行ってもらえない?」と頼む(3枚目の写真、矢印は住所を書いた紙)。大変だし、何か起きたらと嫌がる運転手に、ドーラはかなりのお金を渡して納得させ、バスを降りる。そして、すぐ前にある切符売り場まで行くと、リオデジャネイロ行きの切符を買う(4枚目の写真)〔切符代は60レアル≒6600円〕。ドーラが、喫茶部でビールらしきものを飲んでいると、さっきまで乗っていたバスが出て行く。ドーラは、これで解放されたとホッとする〔リオに戻っても、1000ドルを踏み倒されたペドランに復讐される可能性は高い〕

ところが、振り返る途中で食堂部に目が行くと、何と、そこにジョズエがいる。ドーラはすぐに食堂まで行くと、「こんなことしちゃダメじゃないの。バスに乗ってなくちゃ」と叱る(1枚目の写真)。「一人で行きたがってたじゃないの。ちゃんと手配しておいてあげたのに。私から離れないつもり?!」。ジョズエは何も言わない。呆れたドーラは、「話す気になったら、あっちのテーブルにいるわ」と言って、席を立つ。しかし、すぐに、ジョズエが何も持っていないことに気付く。「バッグはどこよ?」「まさか、バスに置いてきたんじゃないでしょうね?!」。そう叫ぶと、ドーラは外に飛び出して行くが、バスはさっき出て行ったので、どこにもいない〔運転手が、ジョズエが降りて、しかも戻って来ないのに確認せず出発したのは、非常に無責任な行動〕。全財産を失ったドーラは、落胆のあまり 途方に暮れる(2枚目の写真)。こんなことをして時間を無駄にしてしまったので、切符売り場に行き、リオデジャネイロ行きの切符の払い戻しを請求すると、彼女が乗ることになっていたバスは今出たところなので、払い戻せないと言われる(3枚目の写真)〔ドーラの完全なミス〕

ドーラとジョズエが何も食べずに喫茶部のカウンターに座っていると、隣で食べていた男性(セザル)が、手つかずの皿をずらして、ジョズエに 「欲しいかい?」と訊く。「ううん、要らない」。ジョズエは、自分のことしか考えない、ある意味 エゴの塊だが、隣に座っているドーラはお腹が空いているので、「ありがとう、頂くわ」と言う。セザルは、「助かるよ、もう腹一杯なんだ」と言いながら、皿をドーラの前までずらす(1枚目の写真)。ドーラが1つ取って口に入れると、要らないといったくせに、すぐにジョズエも1つ取る。この映画の評では、どれもジョズエを称えているが、ここまで観て来た限りでは、わがままで自分勝手、口が悪く恩知らずで、躾のなってない子という印象の方が強い。ドーラの絶望的な様子を見たセザルは、冗談を真に受けたドーラを気に入り、2人を自分のトラックに乗せる。そこで、ドーラの話を聞いたセザルは、「じゃあ、約束を果たすためにBom Jesusまで行くのか?」と感心する。「そう、約束したの」(2枚目の写真)〔ドーラは、いつも嘘ばかり〕。一方、ジョズエは、男同士のせいか、「どこに住んでるの?」「奥さんは?」と質問攻め。セザルは、「女房は道路。家族はいない」と答える。

セザルは、ガソリンスタンドやレストランのある場所にトラックを停める。目的は、そこにある食料品店に穀物を入れた重い袋を運び入れるため。袋は全部で3個。ジョズエは軽い袋を背負い、残りの1個をセザルが持って来る間、店で待っているよう言われる。セザルが戻って来て、レジで店主と話し込んでいる間に、ジョズエは、レジの後ろに棚の裏側に行くと、奥の棚から複数の食料品を盗み、ズボンの中と、ズボンのポケットに隠す(1枚目の写真)。そして、ドーラが何も頼まずに汗だけ拭いている喫茶室のテーブルに行くと、盗んだ物を見せ、「トラックに行って食べよう」と話しかける。ジョズエはお金など持っていないので、盗んできたと分かったドーラは、「お父さんに見つかったら、殴られるわよ。刑務所に入りたいの?」と叱りながら、盗んだ物を全部自分のバッグに入れさせ、それが終わるとトラックに行かせる。次のシーンは、わざとらしくて信じられないが、ドーラは店に行き、もっとたくさんの食料品をバッグに詰め込む(2枚目の写真、矢印)〔代書屋詐欺はしても、平気で盗難までするとは…〕。そして、店から出ようとして、店主に、「バッグを開けて」と言われ、蒼白になる。セザルは、「この女(ひと)は私の友だちだ」と口を出す。「なら、開けてもらって、すっきりさせよう」。「なんだよ、それ。俺たちは友だちだろ。信仰の友でもある。私は、友人であるドーラを辱めたくないんだ」。「なら、よかろう、セザル。誤解したに違いない」。「ありがとう、ベネ」。かくして、ドーラは、信仰厚きセザルにより 救われた。

トラックに戻ったドーラは、「あんなこと、二度とするんじゃないよ」と、ジョズエを叱る(1枚目の写真)。そして、「私に頼めばよかったのよ。残っていた僅かなお金で、ちゃんと買ってあげたのよ。他にも一杯」と言い、バッグから盗んだ物を出して見せる。ジョズエは、バカにしたように、「お金なんか、ないじゃないか」と言う。「あったのよ。ちょっとだけ。ほら、食べて」。「嘘だ。あそこに行って、買うどころか、もっと盗んだ」。「敬意を払いなさい。あんたの母親代わりなのよ」。「母さんは、盗んだりしないし、あんな風に酔っぱらったりしない」。口論は続き、最後に、「あんたは、ブスで嘘つきだ。だから、結婚できなかったんだ」と罵る(2枚目の写真)〔極めて口の悪い少年。はっきり言って、あくどいドーラが可哀想になる〕「男みたい。イレーネだって口紅塗ってるのに」。そう言いながら、ジョズエは、盗んできた物を文句たらたら食べている。そこにセザルが入って来て、「ベネはいい奴なんだが、疑り深くていかん」と言って笑うので、彼は、本当にドーラを信じている。トラックが動き始めると、ドーラは、「この子、大きくなったら、トラックの運転手になりたいって」と話す。「なら、たくさん小麦粉を運ばんといかんぞ。それに、こんなトラックでも、買おうと思ったら安くないぞ」。それに対するジョズエの返事は、相変わらず、他人を傷付ける。「こんなの小さい。僕は大きなのが欲しい。ターボ付きの」。この生意気な返事にも関わらず、ドーラが、「その子に、ハンドルを握らせてもらえる?」と頼むと、セザルは快諾して、自分の膝の上にジョズエを座らせる(3枚目の写真)。ジョズエからは、ありがとうの一言もない。

セザルは、夜になると、丘の中腹にトラックを停め、ドーラとジョズエは運転席で寝る。セザルは、外で焚き火を起こし、朝は、岩の窪みに溜まった水で顔を洗っているので、外で寝たのだろう。セザルは、ガソリンスタンドと小さな店の並んでいる場所でトラックを停める。セザルと一緒に公衆トイレに行ったジョズエは、ここで、最悪の失言をする。「リオじゃ、どの女の人も、結婚前にセックスするって知ってた?」。このおぞましい言葉に、信心深いセザルは、思わずジョズエの顔を見る(1枚目の写真)。そして、朝食。ウェイトレスが注文を聞きに来ると、ドーラは、一緒に付いてきただけで要らないとセザルに言う。優しいセザルは、「とんでもない、ご馳走するよ」とドーラに言い、ウェイトレスに3人分持って来るよう頼む。そして、ドーラはビール、ジョズエはコカコーラも。注文が終わると、セザルは、ドーラの仕事を訊く。「小学校の先生だったわ」。ここで、ジョズエが、また口を出す。「ううん、手紙を書くんだ。書き方を知らない人のために書いて儲けてるんだ」。「退職後、家計を助けるために始めたの」。ドーラは、ジョズエが何を言い出すか心配なので、店に置いてあるサッカー・テーブルゲームで遊んでくるよう命じる。2人きりになると、ドーラは、ビールをセザルのコップにも注ぐ。セザルは「福音派だから」と言って断るが、最後には、乾杯して飲み干す。ドーラは、「どうしても話しておきたいの。バスに乗れなくて良かった。幸せよ」と言い、セザルの両手を握りしめる。この行為は、セザルを嬉しがらせるどころか、逆に、怖がらせる(3枚目の写真)。ドーラは、「待ってて、すぐ戻る」と言って、席を立つ。セザルは、ジョズエの顔を見る。「リオじゃ、どの女の人も、結婚前にセックスするって知ってた?」と言った、非常識な少年の顔を。ドーラは、これも、腕白が言った、「イレーネだって口紅塗ってるのに」の言葉を念頭に、洗面所の鏡の前で口紅を塗り終えた女性に口紅を借りる〔残りが少ないので譲ってくれた〕。ドーラが口紅を塗って出て来ると、テーブルにセザルの姿はなかった。窓からは、逃げるように出て行くトラックが見える(3枚目の写真)。敬虔な信者のセザルは、ジョズエの雑言に惑わされ、ドーラの態度に危機感を覚えて逃げていったのだ。

Bom Jesus do Norteに行く手段を失ったドーラは、泣き出す。このパーキングのシンボル的な塔の横に座った2人。ジョズエは、すべてが自分の愚かな発言が起こしたことなのに、「なぜ、セザルは行っちゃったの?」と訊く。「ガキンチョ、あんた、答えを知ってるんじゃないの?」。「怖かったんだ。きっとホモだ」。「違う」。「一つだけ言っていい? 口紅塗ったら、うんときれいになったよ」。この時、1台の “人を乗せたトラック” が現われる(1枚目の写真)。この場所のロケ地は、ペルナンブコ州のCruzeiro do Nordesteという小さな村の232号線沿いのガソリンスタンドの一画(2枚目の写真、奇跡的に1997年から25年経ったのに、ほとんど変わっていない)。これから、2人は、トラックに乗せてもらってBom Jesus do Norteに行くのだが、そのBom Jesus do Norteも同じCruzeiro do Nordesteで撮影されている〔つまり、ロケ地という観点では、2人はもう目的地に着いている〕。ドーラがジョズエを連れてトラックに近づいて行くと、荷台には、15名以上が乗っている。ドーラが、「Bom Jesusに行く?」と訊くと、運転手は、「行くよ。だが 遠いから、1人10レアルだ」と言う。お金がないドーラは、腕時計を外して渡す(3枚目の写真、矢印)。満員のトラックに乗った2人。乗客は一斉に歌い出す(4枚目の写真)。

トラックは荒野の真ん中で停車し、休憩を取る(1枚目の写真)。この映画の売り物の、ブラジルの知られざる風景だ。ドーラとジョズエは丘の上に登る。「母さんはいつも言ってた。父さんがセルトンを見せてくれるって」(2枚目の写真)〔セルトンは、ペルナンブコ州の南北を含む “いわゆる、サボテンしか生えないような荒野”〕。そして、さらに、「今、母さんどこかな? ちゃんと埋葬してくれたと思う?」。それを聞いたドーラは、丘を降りて、その直下にある小さな聖堂を目指す。その建物の前には1本の角柱が立っていて、その前の地面では帯状に炎が燃えている。ドーラは、“ジョズエの母が2回目に訪れ、事故死する前に忘れていったハンカチ” を取り出し、柱に供えるようジョズエに指示する(3枚目の写真、矢印)。

2人は、とうとうBom Jesus do Norteの町に着く。ジョズエがしょんぼりしているので、ドーラが理由を訊くと、「父さんに、こんな僕見て欲しくない。汚くて乞食みたいだ」と言う(1枚目の写真、ここは、ロケ地のCruzeiro do Nordesteだが、実際には寒村。人手が多いようにみえるのは、すべてエキストラ)。ドーラは、お金など一銭もないので、「お父さんは気に入るわ。心配しない」と言い、借りたクシで髪の毛を整えてやる。そして、そのクシを借りた露店の女性に、最初の封筒の住所を見せ、どこにあるか訊く(2枚目の写真、矢印)〔ここで、重大な疑問を1つ。この封筒は誰が持っていたのだろう? ジョズエはバスの中にバッグを置いてきたから、ジョズエは持っていない。ということは、ドーラが持っていたことになる。しかし、なぜ? ドーラが封筒をリオに持ち帰ってしまったら、ジョズエは、Bom Jesus do Norteに着いた時、住所も分からず、どうやって父親を捜せばいいのだろう。だから、本来は、ジョズエのバッグに入っていたハズ。いったいどこから現れたのだろう?〕。2人は、延々と荒野の中の道を歩き、大きな牧場の門を開け、ジョズエは走って家に向かう(3枚目の写真)。

ジョズエが家に近づいて行くと、家の外に見知らぬ少年がいて、「母さん、子供が来た」と叫ぶ。父の最初の母は死んで、ジョズエの母が2人目のハズなのに、父には3人目の妻がいて、自分より大きな子がいる。ジョズエは、不安で一杯になる。ドーラが家に入ると、妻が現われ、子供2人と祖母もいる。妻は 「うちの旦那にどんな話があるのか、教えてもらえる?」とドーラに訊くが、ドーラは 「本人にしか言えないの。ごめんなさい」と断る。しばらくすると、旦那が帰って来る。そこに現れた旦那は、ジョズエの父とは思えない、混血の男性。しかし、ジョズエが、彼を父と思い込むということは、彼が、如何に長い間父と会ったことがないのか、ひょっとしたら、一度も会ったことがないのかと思わせる〔もし、何度も会っていたら、すぐに違うと分かったハズ〕。ドーラは、「私はリオデジャネイロから来たの。個人的な問題について話し合うために」と告げる。旦那は、全員を部屋から外に出す。ドーラは、ジョズエのことを、「母親が亡くなり、この世にあなたしかいなくなって」と言ったので、旦那は戸惑うばかり。ジョズエは、好かれようと、よそ行きの顔になる(1枚目の写真)。しかし、その直後、ドーラが、例の手紙を旦那に見せると、事態は一変する。「これは俺じゃない。俺はジェッセだ。奥さん。これは、前ここに住んでたジェズース宛の手紙だ。待ってて、持って来る」。ジェッセは、別の部屋に行き、小さな紙を持ってくる。「ほら、これが彼の住所。Vila São Joãoにいる」(2枚目の写真、矢印)〔架空の地名なので、どのくらい離れているかも分からない〕。そして、さらに、悲しい情報も。「彼は宝くじで家を当てて、ここを売ったんだ。だけど、言わせてもらうと、飲んだくれて、家も何もかも失ったとか」〔なら、その住所に行っても仕方がない〕。悲しくなったジョズエは、ドアを開けて外に出て行く(3枚目の写真)。

次のシーンは、いきなりキリストの祭りから始まる。真ん中にあるのは、シンボル的な塔で、この塔を中心に、多くの住民がロウソクを手にして集まっている(1枚目の写真、中央がキリスト像の入ったガラスの鉄塔、右端の矢印の向こうが教会)。この撮影は、Cruzeiro do Nordesteに700人のエキストラを集めて行われた。だから、架空の祭り。遠くの牧場から、歩いて戻って来たドーラは 極めて機嫌が悪い。お腹が減って倒れそうでも、お金がないので、何も食べられないからだ。だから、ジョズエに 「これからどうするの?」と訊かれると、「知るもんか。両親は、あんたなんか作るんじゃなかった。私は、この先も、あんたに悩まされ続ける。あんたは災いの種〔desgraça〕だよ、災いのね。何て いまいましい!」と、怒りをぶつける。ジョズエは、ドーラを睨みつけ(2枚目の写真)、さっといなくなる。ドーラは、振り返るとジョズエがどこにもいないので、言い過ぎたと後悔して探し始める。大声で、「ジョズエ!」と叫び、広場の中央のガラスの鉄塔の脇を通り、奇跡を祈る場に入っていったドーラは、ジョズエを探しているうちに、疲労困憊して意識を失い、倒れる。不思議なのは、そこにいるのは敬虔なカトリックの信者ばかりなのに、誰一人ドーラを助けようとせず、無視していること。隠れていたジョズエだけが、心配して寄ってくる(3枚目の写真)。

翌朝、倒れたままのドーラとジョズエが映る(1枚目の写真、矢印は教会、昨夜はこの前の広場で祭りが行われた)。何と寂れた町だろう。そこで、ロケ地のCruzeiro do NordesteをGoogle street viewで見てみることにした。時間をかけて探し回り、ようやくこの場所を探し当てることができた。それが2枚目の写真。それほど迷ったのは、2枚目の写真には、1枚目の写真の正面に見えていた教会がないからだ。それに、1枚目の写真では分かりにくいが、広場の真ん中に建っていたガラスの鉄塔もない。それでも、この場所が特定できたのは、両端にある露出した岩場の存在に加え、インスタグラム(https://br.pinterest.com/)にあった右下の写真(「映画でベストのシーンは、ここで撮影された」と書かれている)が決め手となった。この地点は、2枚目の写真の矢印の2軒の建物に該当する。では、1枚目の写真の教会は、CG? その可能性を排除したのは、撮影時の秘蔵写真を紹介したサイトに掲載されていた3枚目の写真。ジョズエの真後ろにはガラスの鉄塔が、その右には教会がちゃんと写っている。しかし、現在、この2つとも消滅し、村の中心だった場所には、地ならしされた跡地らしきものと、店舗を解体して塀にしたような荒(すさ)んだ風景が広がっている。そして、全く別の場所に、新しい教会が建っているが、村はひと気がなく、ここで映画が撮影されたとは信じられない場所になってしまっている。ブラジルは、4半世紀が大きな変化を生む国だ。

余談が長くなったが、カメラは移動し、倒れたままのドーラを慈しむように、ジョズエが頭を撫でるシーンがアップで映る(4枚目の写真)。確かに、この映画でベストのシーンであろう。これを転機として、ジョズエは生意気でなくなり、ドーラはジョズエを好きになるのだから。時間が経ち、町じゅうが人で溢れ返る。ドーラは元気を取り戻し、ジョズエと一緒に、離れた場所にある四角い空き缶に小石を投げ込んで遊ぶ。少年がギターを弾いてチップを求め、手相を見るといって勧誘する女性もいる。ジョズエは、後ろにあった写真屋のコーナーに注目する。ある女性が、「私の教父シセロ神父の写真は幾ら?」と尋ねる。「3レアル」。「ことづては付く?」。「シセロ神父とあんたの写真だけだよ」。それを聞いた女性は、写真をあきらめ、ジョズエは “やった” とばかりににっこりし、その女性に、ドーラを指して、「この女(ひと)、代書屋のドーラ。ことづてを書いてくれるよ」と売り込む。「代書するの?」。「たったの1レアル」(2枚目の写真)。ドーラはことづてを書き始め、その前で、ジョズエは、「手紙だよ! 家族に手紙を送りたい人、聖人にことづけしたい人はいませんか? たったの1レアルだよ!」と大声で宣伝する。お陰でドーラの前には、中央駅のように列ができ、貯まるお金にジョズエも嬉しさ一杯(3枚目の写真、矢印は稼いだお金)〔このあとのジョズエは、ずっといい子、ドーラもいいおばさん〕

1日中書き続けて暗くなった頃、2人は仕事を切り上げ、記念として、写真屋にシセロ神父と一緒の写真を撮ってもらう(1枚目の写真)〔シセロ神父(Padre Cícero、1844-1934)は北東部のカトリック信者に人気のある聖人。ペルナンブコ州のすぐ北にあるJuazeiro do Norteは巡礼地になっている〕。ジョズエは、女性服を売っている露店でドーラに5レアルのドレスを買う(2枚目の写真、矢印はジョズエが管理しているお金)。そして、リオを出てから、初めてホテルに泊まる。部屋に入ると、ジョズエは、郵送用に2レアルで回収した手紙を数十通 袋から取り出し、ゴミ箱に捨て始める。それを見たドーラは、「そんなことしちゃダメ」と止める。「破いてから捨てるの?」。「渡して。私がどうするか見てなさい」。2人は 一緒にベッドに入る。「いつも、そんな恰好で寝るの?」〔下着だけ〕。「じゃあ、どうやって寝るの? 裸で?」。「裸で寝ると気持ちいいよ」(3枚目の写真)。「じゃあ脱ぎなさいよ。構わないわよ。どうしたの、恥ずかしいの? 女の裸のなんか、見たことないんでしょ?」。「見たよ」。「お母さんよね」。「他の女性だよ、たくさん」。「見ただけで、何もしないでしょ?」。「セックスしたよ」。「したの? どうやって?」。「女性と話すようなことじゃないよ」。ドーラは、「まあ、ベッドの中に、ホントの男といるのね」と言って笑うと、ジョズエの額にキスする。

2人がバスを待っていると、すぐそばに郵便局がある。ドーラは、封筒の入った袋を持つと、郵便局に入って行く〔詐欺師のドーラも変わった〕。そのあと、すごく旧式のバスがやって来る。バスの中は、混み合っていて、長距離なのに座ることもできない。ジョズエは、すぐ横に立っている男が手から吊るした生きた鶏をつつき、「満員だね」とドーラに笑顔で言う(1枚目の写真)。バスは、貧し気な家が立ち並んでいる田舎町に停車する。そこのバス停には「Viação Estrela do Norte」と書かれているが、もちろん架空の地名だし、ジェッセが教えてくれた父の住所「Vila São João」との関係も分からない。この場面のロケ地は、Vitória da Conquista。先程までの寒村と違い、現在人口34万人の都市。バス停の横にあった小さな店で、「F通り」の場所を訊く。店主は知らなかったので、横の家で屋根瓦を葺いていた30くらいの男性に、F通りの場所を訊く。彼は、「新しくできた通りだ」と言って、方角を示す。2人がF通りに行くと、同じ形、同じ色彩の家が、ずらりと並んでいる。ドーラは、歩きながら、「お母さんは、お父さんの写真持ってた?」と訊く。「持ってた」。「写真のお父さん、覚えてる?」。「覚えてる時もあれば、消えちゃうときもある」(2枚目の写真)〔結局、ジョズエは父に一度も会ったことがなかった。しかも、写真もきっと小さくて、うろ覚えだったので、ジェッセを父だと勘違いした〕。2人は目的地の家の前に着く。そして、ドーラが外から、「ジェズース」と呼びかけると、1人の男が出てきて、「彼は、ここにはもういない」と言う。「どこにいるか知ってる?」。「知らんね。どっかに消えちまった。その後どうなったか、誰も知らない」と、答える(3枚目の写真)。2人が、がっかりして去った後、ドアのところで聞いていた少年が自転車で出かける〔伏線〕

道路の真ん中での会話。ジョズエ:「父さん、帰って来るかな?」。ドーラ:「いいえ、そうは思わないわ」。「でも、僕、待ってる」。「無駄よ、ジョズエ。戻って来ない」。そして、最もすがすがしい部分。「私と一緒に来ない? ぜひとも、来て欲しいの」。それを聞いたジョズエは頷く。そして、約束成立に握手する(1枚目の写真)。2人はバス停まで戻り、ドーラが、バス停の横にあった小さな店でBom Jesusへの切符を買おうとすると〔この設定では、この架空の場所は、Bom Jesusのさらに奥にある〕、バスは明日しかないと言われる〔他のバスもすべて〕。その時、瓦葺きをしていた男が梯子を下りてくる。すると、さっきの家で、自転車で出かけた少年が寄って来て2人のことを教える。男は、ドーラに寄って行き、「奥さん、おれの親父を探してるんかね?」と声をかける(2枚目の写真)。ドーラは、びっくりして、「親父さん?」と訊き返す。「ジェズースだ。外から来た人が、親父を探してるって聞いたもんで」。「ええ、私よ」。「親父を知ってるんかね?」。「私の友だちよ。息子さんと遭うなんて偶然ね」。「ここは、大して大きくもないから、偶然ってこともないよ」。そう言うと、「よろしく、イザイアスです」と手を差し出す。とても明るくて、親しみの持てる男性だ。「会えて嬉しいわ、ドーラよ」。「家で、スナックでも食べませんか? 親父を訪ねて来る人など滅多にないから」。イザイアスは、ジョズエに名前を尋ねる。ジョズエは、ドーラの話に合わせるため、本名を言わずに、「ジェラルド」と言う。3人が歩いているのは、最初に行ったF通りではないが、家の作りは全く同じ。イザイアスは、家に入る直前に、「ここが、モイゼスと俺の家だよ。親父が出てった後、ここに移ったんだ」と話す〔最初に訪れたF通りの男は、近くに2人の息子が住んでいることくらい教えるべきだった。何という不親切な男なのだろう〕

モイゼスは、イザイアスに比べると、暗い感じはするが、家具作りは抜群の腕で、さっそくジョズエに木のコマを作ってくれる(1枚目の写真)。そのあと、3人で、ボールを蹴って遊ぶシーンもある(2枚目の写真)。モイゼスが、「ガキのくせに巧いな」と言うと、「僕はフツー。2人が下手なんだ」と、相変わらず口は悪い。

イザイアスもモイゼスも字が読めない。しかし、6ヶ月前に父親から届いた手紙がある。そこで、イザイアスは、モイゼスの反対を押し切ってドーラに読んでもらうことに決める。その前後に、イザイアスがドーラに話した重要な事実は、①父の2人目の妻、ジョズエの母アンナは、9年前、お腹にジョズエを入れたままリオデジャネイロに逃げて行った。②父は、アンナがリオから戻るのを2年間待ったが、帰って来ないことが分かると、働くのを止め、泥酔するようになった。借金を返すためBom Jesusの家を売った〔「彼は宝くじで家を当てて、ここを売った」と、話が違う〕。③ある日、父は、忽然と消えた。④手紙は、父からアンナに宛てたもので、出されたのは6ヶ月前〔イザイアスは、「親父が出てった後、ここに移ったんだ」と言っている。父は、新しい住所は知らないから、昔の家に出したとしか思えない。ということは、F通りの不親切な男の言った、「その後どうなったか、誰も知らない」というのも嘘。「息子たちなら知ってるかもしれん」と言うべきだった〕。そして、イザイアスは手紙をドーラに渡す(1枚目の写真)。ドーラは、読み始める。「アンナ。不幸な女。以下のことを言いたくて、何とか代書屋を見つけた〔封筒の色が違うので、代書屋はドーラではない〕。今になって、俺は気付いた。お前が戻って新しい家〔F通りの〕を見つけたに違いないと。なのに、俺は、リオデジャネイロで、ずっとお前を探し続けてきた。この手紙より先に戻りたいが、もし手紙が先に着いたら、是非聞いて欲しい。待っていてくれ。俺は戻って来る。俺は、何もかもモイゼスとイザヤスに任せておいた。アンナ、俺は家に戻る前に、1ヶ月ほど鉱山で働こうと思っている〔言っていることが矛盾している〕。だが、待っていてくれ。戻って来る。そしたら、みんなで一緒に暮らそう。俺、お前、イザイアス、モイゼス。そして、ジョズエ」(2枚目の写真)「ジョズエ、俺はお前に会いたくてたまらない。お前は短気な女だが、再会できたら、お前のために全力を尽くす。俺を許してくれ。俺の人生にはお前しかいない。ジャズース〔アンナがドーラの元を最初に訪れたのは10日ほど前なので、父は完全に間違えている。アンナは、その時点で、F通りではなく、Bom Jesus do Norte宛に手紙を出そうとしたからだ/父がジョズエの名前を知っているハズはない→可哀想だからドーラが勝手に付け足した〕。手紙を聞いたイザヤスは 「親父は帰ってくる」と嬉しそうに言い、モイゼスは 「帰ってこない」と、暗い顔ではっきりと否定、ジョズエは 「いつか帰ってくるよ」と半ば肯定。その夜、星空を見上げながら、ジョズエはドーラに尋ねる。「僕に会いたいって、ホントに書いてあったの?」(3枚目の写真)。「もちろんよ」。「書いてなかったよ」。ドーラは言葉に詰まって何も言えない。

その夜、モイゼスの寝室を使わせてもらって1人で寝ていたドーラは、明け方近くになると、ジョズエが選んだドレスに着替え、口紅を塗ると(1枚目の写真)、3人が一緒に寝ている寝室のドアを開け、ジョズエを最後に一目見る(2枚目の写真)。そして、大切に飾ってある父と息子(イザイアス?)の絵の下に置いてあった先ほど読み上げた青い封筒を絵の下の壁に立てかけ、その左に、ジョズエの母が最初にドーラに依頼した封筒を揃えて置く(3枚目の写真、矢印)〔これまで、ジョズエのことを兄弟に打ち明けてこなかったが、この手紙が証拠になる〕。そして、家を出ると、バス停の方に向かって歩いて行く。犬の鳴き声で目が覚めたジョズエは、ベッドから起き上がると、ドーラの様子を見に行く。そして、ドーラがどこにもいないことに気付くと、寝ていた時の上半身裸の姿のまま、裸足で、バス停に向かって走り始める(4枚目の写真)。この、整然と同じ形の家が並んだ町並の現状が知りたくて、いろいろチャレンジした結果、かなり広いロケ地Vitória da Conquistaの中のVila Serranaという地区だと突きとめた。そこは、ワンパターンの街路形態の宅地で、兄弟の家の通りは不明だったので、最初に訪れたF通りのグーグル・ストリートビューを紹介することにした。そうしたら、あまりの変容ぶりに毅然とした(5枚目の写真、矢印は、当初の家らしき切妻屋根)。余程治安が悪いのか、両側に隙間なく塀か壁が延々と続いていて、切れ目がない。これは、この地区の他の通りでも同じ。1つ前のロケ地では、教会がなくなり、こちらでは、壁で覆われている。僅か四半世紀で、この変わり様。ブラジルというのは、一体どういう国なのだろう?

来た時と同じ旧式のバスに乗ったドーラは、ジョズエに手紙を書き始める。今は読めないかもしれないが、ちゃんと学校に行って、読み書きができるようになることを想定しての行為だ。長い手紙なので、最後の4行を書くと、次のような内容だ。「あなたにとって、お兄さんたちと一緒にいる方がいいのよ。私があなたに与えることができるものより、ずっと相応しいの。いつの日か、私を思い出したくなったら、一緒に撮った写真を見てね。最後にこう書いたのは、あなたが私のことを忘れてしまうのではないかと怖れるからよ」(1・2枚目の写真)。バス停まで走って来たジョズエは、バスが去っていった方を見て、涙に暮れる(3枚目の写真)。

ドーラも、ジョズエも、“祭りの写真屋で一緒に撮った” カラー写真が見える小さな箱を見て、お互いを偲ぶ(1・2枚目の写真)。それにしても、ドーラは、リオに帰ったら、殺されるのではないだろうか?

   の先頭に戻る              の先頭に戻る
  ブラジル の先頭に戻る          1990年代後半 の先頭に戻る